episode6 遊ぼうと誘う理由

 

 

ずっと、うちの犬はおつむが足りないと思っていました。

なぜなら、人の心や空気が読めないと感じていたからです。

 

疲れていて元気が無い時や、仕事で失敗して落ち込んでいる時、あるいは彼女にふられて自暴自棄になっている時など、とにかく自分に元気が無い時に、ふて寝したり、ソファでうなだれたりしていると、うちの犬は決まってお気に入りのおもちゃを引っ張ってきて「遊ぶ?」という無邪気な表情で尻尾を振ってくるのです。

 

「いや・・・今、そんな気分じゃないから・・・」

と断っても、しつこく食い下がって、何度もおもちゃを私の方に押しつけるように渡そうとし、尻尾を振って遊びに誘ってきます。

 

「お前は本当に気楽で良いねぇ・・・」

本当に無垢で無邪気な犬の姿を見ていると、なんだかよく分からないけれど、ささいな事がどうでも良くなり、しかたなく犬とじゃれて遊んでいるうちに、自然と笑顔がこぼれる、という事も何度かありました。

 

そうやって私としきりに遊んだ後は、犬は満足して寝床に戻ってくつろぐのでした。

 

 

ある日、会社で大きな失敗をしてしまい、人生お先真っ暗というほどに落ち込んで帰宅したところ、いつものように空気の読めない我が犬が、おもちゃを持ってきました。

むしゃくしゃしていた私は、つい犬を邪険にケージに押し戻し「今はダメなの!」と大きな声を出してしまいました。犬は尻尾を下げて不満げというよりも不安げな表情を見せていました。

 

私はふと「どうしてうちの犬はこんなに空気が読めないんだろう」と思い、調べてみました。

すると、驚くべき事実が分かったのです。

犬は、飼い主が落ち込んでいたり元気がない時に、自分とおもちゃで遊んでいる時のご主人が楽しそうだったという記憶を思い出して、楽しそうにしてほしいという思いでおもちゃを持ってくるというのです。

 

という事は、私の事を元気づけてくれるために、いつもおもちゃを持ってきてくれていたという事・・・?

空気が読めていないのではなく、むしろめちゃくちゃ空気を読んでたって事・・・?

 

「そうだったのか・・・」

私は自分がふてぶてしい態度を取ってつらく当たってしまった事を反省しました。そして、自らおもちゃを手に取り、犬を遊びに誘いました。

 

パッと目が輝き、おもちゃに飛びついてきた犬とひとしきり遊び、私は犬をギュッと抱きしめました。

 

「ありがとな」

かしこい我が犬をもっと大切にしようと心に決めたこの日が、新たなうちの子記念日となりました。

 

 

 

うちの子記念日普及協会

※この物語はフィクションです