第五話 捨て猫ミルク
雨に濡れて小さな身体が震えていました。
私はとっさにその小さな身体を抱き抱えて、家に走りました。
それが、私とミルクの出会いでした。
ミルクは小さな白猫でした。まだ生後間もない頃に捨てられたのか迷子になったのか、道ばたで震えていたのです。
ひどく毛並みが汚れていて、目やにも溜まっていて、人の事を警戒しているようでした。
おびえる子猫を抱き抱え、家に走った私を出迎えた両親は、驚き、そして顔をしかめました。
母は「急にうちに連れて来られても・・・」と困惑し、父は「よそ様の飼い猫かもしれない」と言い出しました。
しかし、震えて弱っている子猫をどうしても放っておけず、私は身体を拭き、温かい毛布でくるみ、とにかく何か与えないと、とミルクを飲ませました。
子猫は必死にミルクを飲みはじめました。両親もその姿を見て驚きました。まるで「生きよう」という強い意志が伝わってくるようでした。
その日のうちに動物病院へ連れて行き、診察を受けたところ、衰弱はしているけれど、命に別状はないと言われ、ほっとしました。
必要な治療と予防接種などを受けさせてから家へ連れて帰り、しばらく自宅で様子を見ることにしました。また、もし誰かの飼い猫だったら大変と思い、街中やインターネットに白猫を拾ったという投稿をしました。
でも、飼い主を名乗る人は誰も現れませんでした。
家族会議を開き、私は両親にこの子を正式に飼いたいという事を伝えました。難航するかと思いましたが、両親は意外にもすんなり私の希望を受け入れてくれました。うちへ連れてきてから今まで、私がちゃんと面倒を見ている事などを考慮してくれたようです。
それに何よりも両親も小さな白猫の事が好きになっていたのです。
かくして白猫は「ミルク」と名付けられ、正式に我が家の猫となりました。この日がミルクのうちの子記念日です。
名前は、真っ白な白猫だった事も名付けの由来ですが、初めて保護した時のミルクの飲みっぷりがとても印象的だったというのも込めて、ミルクとなりました。
とにかくあの日、私はミルクの「行きたい!いきるんだ」という強い意志と希望を感じました。そこに溢れる生命力に感動すら覚えました。
そしてその瞬間、私がずっとそばにいるから、私が必ずあなたを幸せにするから、と心に誓ったのです。
それからミルクと私はとても良いパートナーになりました。
私に元気が無い時は、ミルクが少々荒っぽいやり方で元気づけてくれます。ミルクはとてもパワフルです。そんなミルクの姿はいつもあの日の子猫を思い出させます。
私もミルクのように強い女性になりたいと、今では手本にさえしています。
うちの子記念日普及協会