第四話 あなたを忘れない

 

これは私の忘れられない「うちの子記念日」の話です。

少し悲しいですが、大切な事を学んだので、是非お話しさせてください。

 

物心ついた時からずっと一緒だった猫のハナ。

私よりも少し年上のお姉さんでした。なかなか子どもに恵まれなかった両親が飼い始めたそうですが、飼い始めた途端私が産まれたのだとよく笑い話にしていました。

私の事も連れてきてくれたのかもね、なんて言われていたので、私は本当にハナの事を慕って大切に思っていました。

 

ハナは私が産まれても決してやきもちを焼いたりせず、むしろ私の事を気にかけてくれていたそうです。

時には子守らしき事もしてくれて、本当にお姉さんのようだったと、母は懐かしそうに語っていました。

 

そんなハナと私はいつも一緒に遊んでいました。

寝るときも一緒でした。旅行にも連れて行き、私たちの家族写真にはいつもハナの姿が映っていました。

 

しかしそんなハナにも天国から迎えがやって来たのです。

ハナは大往生でした。私が15歳の時にハナは天に召されました。17歳でした。

私たちの家族写真から、ハナの姿が消え、私たち家族は悲しみにくれました。

 

中でも私の悲しみはとても深く、なかなか立ち直れませんでした。

高校受験を控えた大切な時期だったのに勉強にも手がつかなくなり、ぼんやりと1日を過ごす事が多くなりました。ふとした瞬間に涙が溢れて止まらなくなり、ハナの遺影を抱えて何時間でも泣き続けました。

 

そんな私を見かねて、両親はハナの四十九日の時に私にある事を伝えてくれました。

 

母が突然「こんなに悲しい思いをするくらいなら、ハナなんかいなければ良かったって思う?」と尋ねてきたのです。

 

そんなわけがありません。

なんて事を言い出すんだ、と愕然としました。

 

私の「信じられない」という表情を、母はまっすぐ見つめて小さく微笑みました。

 

「そんな事、思わないよね。思うわけがないよね。だって、ハナは私たちの家族だもん。ハナと出会わなければ、あんなに楽しくて幸せなひと時は過ごせなかったよね」

 

母はそう続けました。

 

その言葉を聞いて、ハナとの思い出が次々に蘇り、私の目からはまた涙が溢れてきました。

 

今度は父が母の言葉を引き継ぎました。

「別れるのが辛く寂しく悲しい。これはお父さんもお母さんも同じだよ。でも、逆に、別れをこれほどまでに辛く悲しく思える存在と出会えたっていう事は、こんなに幸せなことはないって事なんじゃないかな」

 

「ハナは、それほどまでに私たちにとって大切な存在だったの。そんなハナという存在と出会えた私たちって幸せ者だったと思わない?」

母も、そう言いました。

 

両親の、この言葉を聞いて、私の流す涙の色が少しだけ変わりました。

それまではただひたすらに悲しみに暮れた涙でした。それが、感謝の涙、ハナを想う温かい涙に変わったのです。

 

この日が、私にとってのハナの「うちの子記念日」です。

命の大切さと、出会いの奇跡と、ハナがもたらしてくれた幸せを知った、人生の重要な1日となりました。

 

 

うちの子記念日普及協会